ビジョンの欠如 2015.02.24
「どうしたら売れるブランドを作れるのか?」を考える前に「自分たちがどういうブランドを作りたいのか?どこを目指したいのか?」ブランドを作る側はそこを先にきちんと考えるべきではないのか?最近、今秋立ち上げ予定の新規ブランドについてクライアントからお話しを伺っていて、そう感じさせられる場面がありました。これまでも他の会社でも何度となく経験してきた違和感でもあります。
逆にそこをきちんと考えているブランドや会社、経営者との出会いももちろんたくさんあります。そんなときは一消費者として純粋にとても嬉しく、またデザインをする上でも全く支障を感じません。「ビジョン」の有無はブランドに何をもたらすのか、一度きちんと自分なりに明文化しておきたいなあと思っていました。
ファッションをメインとした店舗の設計に十数年関わってきましたが、数年前に「インテリアデザイン事務所」としてではブランドに本当に必要なことを伝えきれないと判断し「インテリアデザイン&ブランディング会社」と業態を変え、自分たちの意識も変えて、それでも変わらずメインとなる仕事はインテリアデザイン(店舗デザイン)を中心にその業界に携わってきました。
自分たちの業態を数年前に変更したことはほとんど誰も知らないとは思いますが(笑)、それに伴って自分たちの意識が少しずつ変わってきたことで、私たちと仕事で関わってくださる方々も、ご依頼頂く方々も、そしてご依頼を受けてこちらからご提案する内容も、少しずつですが、大きく変わってきたと感じています。
常に念頭にあるのは「よりそのブランドらしい佇まいに」お店を作り上げることですが、それは「デザイン」上の話であって、今はむしろ「自分たちが関わるブランドが5年先も、10年先も人々に必要とされ、共感されるお店であること」こそ本来最も重要なことだと感じ、勝手に「ブランディング」の意識を持って仕事に取り組んでいます。
そんな意識で多くのファッションブランドに関わらせて頂いていて、今一番気になっているのはブランドにとっての「ビジョンの欠如」そして「コンセプトの軽視」です。目先の売上げだけを重視した場合、店舗内装にはファッションの流行と同様に「流行」が存在します。流行に大きく左右されたデザインを施すことで一時的に人の目を引き、短期的戦略としての売上げの確保は可能でしょう。それを「デザイン」という力を総動員して飛躍的に伸ばすことももちろん可能だと思っています。
しかし、ブランドがよりブランドとして成長を続けていく為には5年先、10年先に今以上に人々に「共感」され続けているブランドで在るべきです。そこにはブランドが目指すべき「ビジョン」や、軸となる「方向性」が無ければ、それは一時的な成功にしか繋がりません。「今売れているから」「今流行っているから」「これからこれが流行るって言われてるから」そんな軽い気持ちでブランドの立ち位置をコロコロと変えていては、そのときは売れたとしても、数年後は誰も共感してくれなくなるのではないでしょうか?
また、ブランドの一部である「店舗」とはそのビジョンを視覚的に表現するイメージで在るべきです。しかし今はどちらかというと「ビジョンは無いけどコンセプトだけはっきりしたお店」が軒を連ねています。しかし本来「コンセプト」と「ビジョン」は表裏一体であるべきです。流行に合わせた「コンセプト」だけでお店を作っても長続きするはずもありません。
それはもちろん店舗のデザインだけに限りません。視覚的にそのブランドを伝える為にロゴも、販促物も、同じように人々にブランドイメージを伝える媒体として存在します。そして何よりも「商品」自体がそのビジョンを反映してこそ、ブランドはブランドたらしめるのです。それらが全て揃ってこそトータルデザインの価値も生まれるというものです。
意外にもそのことを理解して立ち上がっているブランドが少ないのではないかと感じているのです。見方を換えれば、それを理解してブランドを構築しているブランド、ブランディングを理解している経営者のいる会社は、今のこの時代でも着実に成長しているようにも感じています。そして、その傾向がここ最近特に顕著に表れ始めているとも感じるのです。
当然ながら「ビジョン」の構築ができるのは、ブランドのディレクター、もしくはその会社の経営者です。私たちはアドバイスはできても、勝手に作ることなんて決してできません。「目先の売上げだけ見てても、その先に目指すものが見えなければ、服を作っていても面白くないんじゃないですか…」正直そう思ってしまいます。モノが売れない今だからこそ、そんな日本が誇れる「ブランド」がもっともっと増えてくれることを願っています。